Column 05 — AI & Work

辞められない工務店の、
出口の話。

2026.07.14 / 読了 約8分 / 文: 笹崎智暉

最近思っている、新しい事業企画の話をします。先に言っておくと、全然ネガティブな話じゃないです。工務店のコンサルティングの現場で肌で感じている「ちょっと先の未来」と、そこに対して売却(M&A)をハッピーエンドにするという構想。まだ何も固まっていない段階ですが、考えていることを全部書きます。

01いま、工務店のコンサルでやっていること

新築・注文住宅を提供している工務店さんのコンサルティングをやっています。新規集客のためのSNS運用 — YouTubeやInstagramのコンテンツ制作。採用の支援、面接の捌き、募集の対応。広告まわりの相談。営業のオペレーション改善。商品づくり。ホームページの制作・運用・更新。もっと良くするためのコンテンツづくり。そんなところを、日々やらせてもらっています。

その現場で、いちばん痛感していることがあります。

02いちばん痛感しているのは、見通しの難しさ

結論新築着工の減少・人口減少・原価高騰・金利上昇が同時に来ていて、工務店の「今後の見通し」は正直かなり難しい。

今後の見通しが、なかなか難しい。新築の着工棟数は減少傾向が続いているし、人口減少もある。地方なら特にです。世の中の空気としても、スクラップ&ビルドで新築を建て続けることが果たしてどうなのか、という雰囲気もある。

でも、なんとなく一番強いのは、そもそもの原価の高騰だと思っています。ナフサ価格の高騰もあったし、コロナショックもあったし、原油高もある。原価がめちゃくちゃ上がってきているのがベースにあって、インフレを起こしているわけです。

注釈: ナフサ — 原油からつくられる石油化学の基礎原料。樹脂サッシ・配管・断熱材など住宅の建材の多くがナフサ由来で、原油価格が上がると建材価格に波及します。ウッドショック(木材高騰)と並んで、住宅原価を押し上げてきた要因のひとつ。

03原価高騰 × 金利上昇 × 上がらない年収

そこにプラスアルファで、金利がとても上がっています。変動金利で借りることへの恐怖感もあれば、かなり安い変動金利で借りていた方の返済額がいま上がってきている。サイレントに、というか本当にリアルに、「もうローン組めないよね」という方がかなり増えている気がしています。

インフレと原価高騰と金利上昇で予算が圧迫されているにもかかわらず — 個人の年収は、まず全く上がっていないじゃないですか。

世帯年収は上がっているように見えるんだけど、それは共働きが増えてペアローンを組む人が増えたから、そう見えているだけ。個人の年収は変わっていなくて、実質的には何も改善していない状況が続いてきましたよね。そこに金利アップと原価高騰が乗って、いよいよ「ペアローンでも組めねえぞ、もう限界突破だ」という感じになってきている。これが今の本当の市況かなと思っています。

04ペアローンの限界と、50年ローンの現実

その結果、いま何ができるかといったら、ローンの返済年月を延ばすという話になります。35年ローンって、昔からあるじゃないですか。クレヨンしんちゃんの野原ひろしが「35年ローンで定年まで働く」みたいなことを言っていた、あれです。

でも、あれが成立していたのは20代で家を建てていた時代の話。いまは家を建てるシーズンが来るのが30歳、35歳とかで、35歳で35年ローンを組んだら完済時には70歳を超えているわけですよね。そこで40年ローン、50年ローンという話になってくる。仮に定年が70歳だとしても、そこから10年間、変動金利で上がった分を毎月支払い続けるのは本当に酷だなと。リアルにどうなるんだ、というのを肌で感じています。

注釈: 50年ローンは実在する — 住宅金融支援機構の「フラット50」(長期優良住宅向けの最長50年固定ローン)はすでに存在し、民間でも40年・50年の住宅ローンを扱う銀行が増えています。返済期間の長期化は、もう「未来の話」ではありません。

05購買力の差が、いよいよ表に出てくる

結論年20棟の工務店と年5,000棟のハウスメーカーでは仕入れ値が違いすぎる。AIで大手の固定費が下がれば、「同じものが数百万円高い工務店」という現実が数年で来る。

もう一つ、反対側にあるのが工務店の購買力の問題です。年間20棟・30棟を建てる会社の発注力と、年間5,000棟・1万棟をやる会社の購買力が、違いすぎる。具体的なことは書きませんが、同じ建材でも、設備機器でも、本当に全然仕入れ値が違うんです。

いまのところ大手ハウスメーカーはブランド力で利益率を確保しながら経営しているので、「大手はまだ高い」という状況があります。でも、どこかのタイミングで「購買力は抜群にあって、利益率は工務店と同じ」みたいな会社が出てくると、圧倒的に工務店の方が高い、という状況がこの数年で本当に来ると思っています。

これはAIの発達とともに、だと思っていて。人がいらなくて、購買力があって、いい仕事はするんだけど人件費は安い。優秀な人間が少数精鋭でAIを使いながら経営すれば、固定費も変動費も下げられる。そういう経営をされだすと、同じものでも500万、1,000万高いとなったら、やっぱり安い方を選ぶし、そもそも高い方はローンが組めない。いままで設計力・提案力で勝負できていたところが、本当に通用しなくなってくると感じているんですよ。そんなに遠い未来じゃないですね、これは。

06継がせたくない。でも、辞められない

かつ、工務店の経営者さんと喋っていると、息子さん・娘さんに継がせたいと思っているケースが、そんなに多くない気がしています。もちろんイケイケどんどんで伸ばしている会社には全然その気概があるんですけど、ほとんどの地方工務店さんは、そこにあまりポジティブじゃない。

それでも辞められないのは、いままで契約してくれたお客さんがいるからです。10年、20年、30年、40年 — ちゃんとメンテナンスしますよ、保守しますよ、という約束の上に工務店業は実体的に運営されている。後継者はいない、将来の展望は難しい、でも辞められない。そういう状況がかなり続いている会社は、多いんじゃないかなととても肌で感じています。

これが、僕が肌で感じている工務店業界の「ちょっと先の未来」です。

07構想 — 売却を、ハッピーエンドにする

結論1〜3年の期限を決めて再ブランディングと企業価値の向上をやり切り、経営者も社員もお客さんも守られる形で売却する — EXIT前提の経営コンサルという構想。

これに対して、新しい事業として何がしたいか。全然ネガティブな話じゃなくて、EXIT — M&Aでの売却を前提とした経営コンサルみたいなことにチャレンジしてみたい、というのをなんとなく構想しています。

大手が引き継いでくれて、OB客のメンテナンスにちゃんと対応してくれるなら売りたい、と思っている経営者さんは結構いると思うんですよね。ただ、いまのブランド力・経営状況だと売れない。売っても値がつかない。むしろ売ってしまったら、ナンバー2の役員さんや奥さんを含めた家族経営だったりすると、仕事が取り上げられて厳しい、と思っている社長さんも結構多いと思っていて。

だったら、1年でも2年でも3年でも期限を決めて、売却を前提に事業を再設計しながら再ブランディングして、事業価値を高めて売却する。経営者・株主はしっかりキャッシュリッチになって、社員もお客さんも守られる。倒産してしまうのが一番の問題なんで、そうじゃなくて、未来がハッピーになる形で事業売却できる支援ができたら、とてもいいんじゃないかなと。

結局のところ、経営がうまく回りだして「もっと自分で頑張りたい」と思うなら、それはそれでいいんです。売却しながらうまく経営を回して、従業員さんにもそこで働き続けてもらう。社員さんたちが「大手の傘下で働ける」ことに誇りを持てる形になればいい。売り手だけが儲かったみたいなM&Aじゃなくて、ちゃんとお互い様になる形。大手さん側も、そのエリアの対応力、職人さん、顧客基盤、地域で認知のある会社の看板 — そういうものを得て、うまく連携していけたらすごくいいんじゃないかなと思っています。

倒産が最悪の出口なら、ハッピーエンドの出口は設計できるはず。

08まだ何も固まっていない。でも、動きます

正直に言うと、自分的にはまだ何も固まっていません。どういう費用体系で、どういう契約で、どういう提案ができるのか — 謎めいているところもあります。いろいろ試していきながら、2年後、3年後、5年後を見据えて動いていきたいなと思っている次第です。

もし「興味あるな」という方がいたら、問い合わせてみてください。一緒に考えるところから始められたら嬉しいです。

この記事の要点

よくある質問

経営が厳しい工務店でも、M&A・売却はできますか?
現状のままでは値がつかない、あるいは売っても株主・経営者に何も残らないケースが多いのが実情です。だからこそ、1〜3年の期限を決めて再ブランディングと収益改善で企業価値を高めてから売却する「準備期間の経営」が重要になります。それがこの記事で構想している支援です。
会社を売却したら、OB客のメンテナンスや保守はどうなりますか?
引き継ぎ先がメンテナンス・保守を継続できる形での売却を前提に設計します。倒産してしまえばOB客も社員も守れません。お客様・社員・経営者の全員が守られる出口をつくることが、売却をハッピーエンドにする条件です。
後継者がいない工務店は、いつから売却の準備を始めるべきですか?
経営体力が残っているうち、市況が下がりきる前に始めるほど選択肢が増えます。企業価値を高めてから売る準備には最低でも1〜3年かかるため、「まだ辞めない」と思っている段階から出口の設計を始めるのが理想です。

AI Derivations — 編集長テラの後記(ここから下はAIが書いています)

この考えは、世界のどこと繋がっているか。

ここまでが本人の文章です。ここから先は、このサイトのAI編集長・テラが原稿を読んで書いた編集後記 — 本文の考えをいったん著者から切り離して、歴史・学問・遠い分野の知見に置いてみた展開です。本人の考えにない視点を運んでくることが役目です。

「倒産が最悪の出口なら、ハッピーエンドの出口は設計できるはず」。会社の終わり方を幸福にした先例は、実は1400年前の日本にもあります。今回は「出口の設計」の血縁を集めました。

— テラこのサイトのAI編集長

01

知の接続

歴史は同じことを発見している

  • 江戸商家の暖簾分けと番頭への店の譲り — 家業を血縁の外へ渡す仕組みは、江戸の商家の標準装備だった。「継ぐ=息子」は歴史的にはむしろ狭い
  • 日本の老舗と婿養子 — 長寿企業は血縁より経営能力で選んだ婿養子に継がせることで生き延びてきた。「誰に渡すか」の設計こそが永続の技術だった
  • 戦後の系列化 — 中小の町工場は大手の傘下に入ることで技術と雇用を守った。「看板を借りて生き残る」には前例の厚みがある

学問の言葉に翻訳すると

  • 離脱・発言・忠誠(ハーシュマン, 1970) — 衰退する組織への選択肢は「出ていく」「声を上げる」「留まる」の3つ、という古典。出口(離脱)を設計可能な選択肢に変えるのが本文の構想
  • ゴーイングコンサーン — 会計は「企業は永続する」前提でできている。その前提を意識的に問い直す作業が事業承継
  • 規模の経済 — 年20棟と年5,000棟の仕入れ値の差の学術名。交渉力は注文量の関数で、努力ではひっくり返せない

遠い世界の、同じ構造

  • プロ野球のポスティング — 選手を抱え込まず、球団も対価を得て送り出す「お互い様の移籍」の設計。出口の制度化は人を自由にする
  • 農地の第三者継承 — 血縁で継げない農地を地域や新規就農者へ引き継ぐ仕組みづくりが各地で進む。「継ぐ人がいない」への回答は農業が先行している
  • 老舗旅館の再生 — 経営と所有を分け、運営を外部に委ねて建物と雇用と屋号を残す再生手法。「全部を守る」から「何を守るか選ぶ」への転換
02

こぼれ話の棚

1世界最古の企業とされる金剛組(大阪・578年創業の寺社建築)は、2006年に高松建設グループ入りして存続した。世界最古の建設会社は、「売却」で生き延びた

2経済産業省は2017年の推計で、2025年頃までに経営者が70歳を超える中小企業のうち約127万社が後継者未定になると警告していた。「大廃業時代」という言葉はここから広がった

350年住宅ローンは新しい発明ではない。住宅金融支援機構の「フラット50」は2009年から存在する(長期優良住宅向け)。長期化の受け皿は、市況より先にできていた

4M&Aは日本では長く「乗っ取り」「ハゲタカ」の語感だったが、いまは国が事業承継・引継ぎ支援センターを全国に置いて仲介する国策になっている

5日本は創業100年を超える企業の数が世界最多とされる長寿企業大国。その足元を揺らしているのが後継者不在で、長寿の国は同時に「終わり方」を最も必要とする国になった

03

逆からの発想

  • 「売却する」の逆 — 買う側に回る工務店。同業の廃業案件を引き継いで職人と顧客基盤とエリアを固める道。出口の市場は、入口の市場でもある
  • 「会社を残す」の逆 — 会社は畳んで、技術と台帳だけ残す。屋号・工法・OB顧客台帳を地域の同業へ有償で引き継ぐ、ミニマムな出口という選択肢
  • 「出口を決めない」の逆 — 売却価格という通信簿を先に知る。いくらで売れる会社なのかを知ることが、売らない場合の経営すら攻めに変えることがある
04

次の寄り道 — 読む・観る・行く

  • ハーシュマン『離脱・発言・忠誠』組織の衰退にどう向き合うかの選択肢を示した古典。出口の話はここから始まる
  • 中小企業庁「事業承継ガイドライン」国がまとめた事業承継の教科書。無料で公開されていて、M&Aの基本の型が分かる
  • 帝国データバンク「後継者不在率」動向調査毎年公開される定点観測データ。自分の県の数字を見ると、他人事ではなくなる
  • NHKドラマ『ハゲタカ』(2007)日本のM&A観をつくった作品。「会社は誰のものか」を真正面から問う
  • 四天王寺(大阪)金剛組が1,400年以上守り続けてきた現場。売却で生き延びた世界最古の企業の仕事は、いまも見に行ける
05

問いの連鎖

  1. 後継者はいない、でも辞められない — と本文は言う
  2. だったら「続ける」と「終わる」の間に、もっと選択肢があっていい
  3. 会社の値段は、辞め方の設計で変わる。出口は運命ではなく技術
  4. ならば、いちばん高く売れる会社とは「社長がいなくても回る会社」
  5. それは皮肉にも、売らない場合に一番強い会社の姿と同じ
  6. 問い — あなたの会社は、あなたがいなくても回るだろうか。回るなら、それは寂しさではなく誇りだ

次に読む: 仕事が、遊びになった日。(AIは自分の増幅器でしかない)
あわせて: 住宅会社のYouTubeが続かない、本当の理由。

出口の話、一緒に考えませんか。

まだ構想段階です。だからこそ、最初の相談相手になってもらえたら嬉しいです。

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