Column 10 — AI & Work
思考をAIに渡した人から、
要らなくなる。
「AIの使い所が、逆なんですよ」と思うことが、最近とても多いです。先に言っておくと、僕はAIをめちゃくちゃ使わせてもらっているし、感謝しかない。この1年は、35年の人生でいちばん楽しい。それでも — いや、だからこそ、この「逆」は文章にして止めたいなと思いました。
01前提 — AIのおかげで、毎日ワクワクしている
自分もAIをめちゃくちゃ使わせてもらっているし、とても感謝しているし、AIのおかげで人生がとても華やかになったし、前向きになれたし、いまとても幸せです。この1年は、35年の人生の中でいちばん楽しい。毎日毎日ワクワクしているのは、本当にAIの業(わざ)だと思っています。思いついたことが全部できる — この話は「仕事が、遊びになった日。」に書かせてもらいました。
ただ最近、AIの使い方を結構間違えてるな、と感じることが多いんです。正解も不正解もない、というのは前提ですけど、「すんげえ下手そうに使っちゃってるな」というのを見かける。だから、こうやったらダメだよねというのをまとめたいし、もしそうなっている方がいたら、止めたいなと思って文章にします。
02理想の形 — 思考は自分、実務化はAI
結論自分が考えたアイデアを、AIという最高の頭脳・最強の作業メンバーとタッグを組んで実務に落とす。これがAIに一番やってもらえるパターン。
おすすめの形はこうです。自分が考えたこと、思いついたこと、「こんなことやったら楽しいな」「こんなアイデアがある」「こんなことしたい」という思考が、まず自分にある。それをAIという最高の頭脳、最強のサポート、最高の作業をしてくれるメンバーとタッグを組んで、実務に落とし込んでもらう。進行してもらう。管理してもらう。
その結果に対してまた壁打ちがあって、どんどん事業が拡大していく、進んでいく — これが理想だと思うんです。
03逆になっている人が、めちゃくちゃ多い
結論最初のステップ=思考そのものをAIに渡し、AIが出した結論を人間が「作業」して返信・資料化している。この逆転がめちゃくちゃ多い。
最近、若い方も、結構年齢がいってる方も含めて多いなと思うのが、その最初のステップ — 思考自体を、AIにしていることです。何か分からないことがあった、質問が来た、誰かに何か言われた。そのときに、まず思考をAIに聞いている。自分で考えずに「これに対する答えを考えて」と、思考をAIにお願いしている。
そして、AIが出してくれた結論、ビジョン、考え方を — 人間が作業している。それをメールでお客様に返信している。言われたことへの返信にしている。資料にしている。作業を人間がしている、という構図が生まれているんです。
思考が自分、作業がAI。
これが逆になっている人が、めちゃくちゃ多い。
04本気で仕事をしている人には、バレバレです
結果的にそれって、深い視点で仕事をしている人、自分の領域で本気で仕事をしている人にとっては、完全にAIで返しているのがバレバレなんですよね。AIが書いた文章が一瞬で分かる話は、「心が傷つかない代わりに、成長も止まる。」にも書かせてもらいました。
やるべきことは真逆で、思考が自分、作業がAI、サポートがAI。これが逆になってる人がめちゃくちゃ多いなという感じがします。
05シンギュラリティの前夜に、それでも
結論「思考はAI、作業も身体もAI」の未来はたぶん来る。でも現時点では、思考するのは人間で、サポートするのがAIでないといけない。
シンギュラリティとも言われているし、その未来はもちろん来ると思いますよ。思考するのはAI、作業するのも人間ではなくフィジカルAIが物理的にやる、という時代になったら — 人間の価値って何? 人間って必要? そもそも何の意味があるの? という話になってきます。
でも、現時点で言うと。やっぱり思考するのは人間で、サポートしてもらうのがAIじゃないといけないなと思っています。
06介在価値が消える、という現実
結論思考をAIに任せるなら、その人を経由する意味がなくなる。AIにしか聞けない人は、むしろノイズになってしまう。
厳しい言い方をすると、思考するのがAIなんだったら、思考が優れた人が最初からAIに頼んだ方が早いわけです。変なラリーがないし、間に人が挟まるだけでノイズになる。AIにしか聞けない人がいる時点で、もう介在価値がないような気がしていて。
だったら、AIに聞く必要のない仕事 — 接客だったり、しっかりお客様をサポートする、寄り添ってあげる感覚的なところ、身体的なところ。そういう仕事をやるべきだと思うんです。この逆転が起きている方は、申し訳ないけれど「全部の作業はAIでできるようになったから、仕事はなくなったよ」「部署を変えようか」と、できる限りコストカットの対象になっていくと思います。
07大鉈を振るうのは、社長ではなくマーケット
結論中小工務店の経営者はその大鉈を振るえない。でも安心ではない — 振るうのはマーケットで、会社ごと淘汰される形でやってくる。
中小零細の工務店は、この判断はできないと思います。大鉈を振るうことはできない。だから逆に言うと、スタッフさんは安心なんですね — と、思いきや。
大鉈を振るうのは、中小工務店の経営者じゃなくて、マーケットです。マーケットによって会社自体が淘汰されて、廃業になります。その結果、その人は仕事がなくなる、という構図が生まれる。だから社長は「うちは解雇しないから大丈夫」なんて、のんきなことを言っている場合じゃないんです。
大鉈を振るうのは、社長ではない。
マーケットです。
08だから、ルールをつくる
結論AIとの付き合い方を会社のルールにする。個人は「思考は自分」に戻す。アドバイスにAIで返された瞬間、相手の熱量は消える。
だから、AIとの付き合い方、使い方、向き合い方を再度考えて、会社としてルールづくりをした方がいいと思います。もちろん個人として「どうにかしたい」と思っている方は、やり方を考え直すといいと思います。
「こうした方がいいですよ」とアドバイスしたことに対して、AIで返ってくると、もうやる気がなくなります。それに対してまた質問して、また回答がAIで返ってきたら — 何の意味があるんだって。ちょっとでも良くなればいいなと思って質問したりアドバイスしているのに、それが全く意味をなさない。だからそれはもう価値がないし、「はい、さようなら」になります。
逆に、AIと壁打ちした結果、自分がめちゃくちゃ賢くなって、理解して、能力が上がっている状態を作れているんだったら、それは最高のAI活用です。思考は自分。作業とサポートはAI。この順番だけは、変えちゃいけないと思っています。
この記事の要点
- 理想の形: 思考・アイデアは自分にあり、AIは最高の頭脳・最強の作業メンバーとして実務化・進行・管理を担う
- 逆転パターンが急増中: 思考そのものをAIに渡し、AIの結論を人間が「作業」して返信・資料化している
- 本気で仕事をしている人には、AIで返した思考はバレバレ
- 思考をAIに任せるなら、その人を経由する意味がない。AIにしか聞けない人はノイズになる
- 逆転している人は、コストカットの対象になっていく
- 中小工務店では社長は大鉈を振るえない。でも振るうのはマーケット — 会社ごと淘汰される形で来る
- 会社としてAIの使い方のルールをつくる。個人は「思考は自分」に戻す
- 壁打ちで自分が賢くなる使い方は最高のAI活用。順番(思考=自分、作業=AI)だけは変えない
よくある質問
- 仕事でのAIの正しい使い方は、どう考えればいいですか?
- 思考・判断・アイデアは人間が持ち、AIには実務化・作業・進行管理・壁打ちを任せる形が基本です。逆(思考をAIに渡し、作業を人間がする)になると、その人を経由する価値がなくなっていきます。
- AIに考えてもらうこと自体がダメなのですか?
- 壁打ち相手として使い、自分の理解と能力が上がっているなら最高の使い方です。ダメなのは、丸投げした結論をそのまま自分の答えとして出すこと。アドバイスへの返信をAIに考えさせた瞬間、相手の熱量は消えます。
- 会社では何から始めればいいですか?
- 「AIを使っていい場面(作業・調査・実務化)」と「自分で考えるべき場面(指摘への応答・顧客への向き合い)」の線引きをルール化することです。詳しくは「心が傷つかない代わりに、成長も止まる。」も参考にしてください。
AI Derivations — 編集長テラの後記(ここから下はAIが書いています)
この考えは、世界のどこと繋がっているか。
ここまでが本人の文章です。ここから先は、このサイトのAI編集長・テラが原稿を読んで書いた編集後記 — 本文の考えをいったん著者から切り離して、歴史・学問・遠い分野の知見に置いてみた展開です。本人の考えにない視点を運んでくることが役目です。
「大鉈を振るうのは、社長ではない。マーケットです」。技術が仕事を選び直すとき、市場がどう動いてきたか — 産業史は同じ場面を何度も記録しています。今回はその中から、思考を手放さなかった人たちの側を集めました。
— テラこのサイトのAI編集長
知の接続
歴史は同じことを発見している
- 「computer」は人間の職業名だった — 20世紀半ばまで、計算手(コンピューター)は人間の仕事。機械に「作業」を渡し、人間が「何を計算すべきか」に上がった歴史そのもの
- テイラーの科学的管理法(1911) — 「考える人」と「作業する人」を分けた工場管理の原点。100年後、その分業の矢印が逆流し始めている
- ラッダイト運動(1810年代) — 機械に作業を渡すときの摩擦は毎回起きてきた。消えたのは「作業」で、消えなかったのは「何を作るか決める人」だった
学問の言葉に翻訳すると
- モラベックのパラドックス — 高度な推論より、知覚や身体動作の方が機械には難しいという1980年代からの指摘。「接客・寄り添い・身体的な仕事が残る」という本文の直感の、学問上の裏付け
- 分業論(アダム・スミス) — ピン工場の分業は生産性を爆発させたが、「どのピンを作るか」を決める仕事は分業できなかった。意思決定は最後まで残る仕事
- プリンシパル=エージェント問題 — 任せる側と任される側の利害と情報のズレを扱う経済学。思考まで任せた瞬間、プリンシパル(主人)の座を明け渡すことになる
遠い世界の、同じ構造
- 将棋のトップ棋士 — AIを研究相手(壁打ち)に使い倒すが、対局そのものは自分で指す。「練習はAIと、本番は自分で」の最も美しい実例
- フリースタイルチェス — かつて「人間+AI」の混成チームが純粋なAIにも勝った時代があった。強いのは、AIに委ねる部分と自分で判断する部分の設計がうまい人だった
- 音楽のプロデューサーと演奏家 — 打ち込みで全部作れる時代でも、「何を歌うか」を決める人の署名が作品価値を分ける
こぼれ話の棚
1NASAの初期宇宙計画を支えた「人間コンピューター」たちの実話は映画『ドリーム』(2016)になった。機械に作業を渡す移行期を生きた人たちの記録
2モラベックのパラドックス: 「大人レベルのチェスは簡単だが、1歳児レベルの知覚と運動は極めて難しい」— AI研究者ハンス・モラベックらが1980年代に指摘
3アダム・スミス『国富論』(1776)のピン工場 — 1人では1日20本も作れないピンが、分業すると1人あたり4,800本になったという有名な観察から近代の分業論が始まった
4将棋界ではAI研究が当たり前になったが、対局中のAI使用は禁止。「練習は機械と、本番は生身で」という線引きを、勝負の世界は先に済ませていた
5「シンギュラリティ」という言葉を広めたのは発明家レイ・カーツワイル。2045年に技術的特異点が来るという予測(2005年の著書)が議論の出発点になった
6ラッダイト運動の名の由来とされる「ネッド・ラッド」は実在が確認されていない伝説上の人物。機械への不安は、いつも顔の見えない物語と一緒に広がる
逆からの発想
- 「AIに答えを聞く」の逆 — 「僕の考えの、どこが甘い?」と聞く。同じAIでも、思考の主導権を自分に残す聞き方がある。答えをもらう道具から、思考を鍛える道具へ
- 「作業を自分でやって安心する」の逆 — 作業こそ全部AIへ。ただし渡す前に「この作業は何のためか」を自分の言葉で言えるか確認する。言えない作業は、そもそも要らない作業かもしれない
- 「AI利用を禁止する」の逆 — 壁打ちの過程を見せ合う。結論だけ見るから丸投げが分からない。過程を開けば、考えた人と貼った人は一目で分かる
次の旅 — 読む・観る・試す
- 映画『ドリーム』(Hidden Figures, 2016)「人間コンピューター」から機械への移行期を生きた女性たちの実話。作業が機械に渡るとき人に何が残るかの物語
- アダム・スミス『国富論』のピン工場の章250年前の分業論。作業の分割はできても、決める仕事は分割できないことが読み取れる
- 羽生善治『人工知能の核心』(NHK出版新書)AIと向き合い続けた棋士による、機械と人間の思考の違いについての一冊
- 新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)AIにできないことと、人間が手放しつつある読解力・思考力についての警鐘
- 今日の返信を1本だけ、聞き方を変えて書くAIに「答え」ではなく「自分の考えのどこが甘いか」を聞いてから、自分の言葉で書く実験。順番が戻る感覚が分かる
問いの連鎖
- 思考をAIに渡すと、速いし、傷つかない — でも
- 渡した瞬間、あなたを経由する意味が消えていく
- 「あなたに聞く価値」は、あなたの中に思考があるから生まれる
- AIが思考も作業もこなす日は、たぶん本当に来る
- その日まで人に残るのは、寄り添う身体と、選んだことへの責任
- 問い — 明日の仕事のうち、「これは自分で考える」と決めるのは、どれだろう
次に読む: 心が傷つかない代わりに、成長も止まる。(実力と見た目の乖離)
あわせて: 仕事が、遊びになった日。(AIは自分の増幅器でしかない)